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話し合いの作法:職場・チームのリーダーに対話のスキルを!

  • 中原 淳氏(立教大学 経営学部 教授)
基調講演 [X]2024.01.05 掲載
講演写真

リーダーがチームを率いていくとき、メンバーと考えを出し合うときなど、「話し合い」が行われる場面は多い。ところが、ディスカッションが得意な人、ファシリテーションが得意な人など、「話し合い」が上手な人は、多いわけではない。どうすれば、職場、チームの「話し合い」を活性化できるのか。今、「話し合い」を学ぶべき理由とは何なのか。対話の基本的な意味や、職場で発生しがちな好ましくない「話し合い」のいくつかの傾向を踏まえながら、立教大学経営学部 教授・中原淳氏が、対話やファシリテーションを学ぶポイントを語った。

プロフィール
中原 淳氏(立教大学 経営学部 教授)
中原 淳 プロフィール写真

(なかはら じゅん)立教大学経営学部ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所 副所長などを兼任。博士(人間科学)。2018年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発について研究している。専門は人的資源開発論・経営学習論。『職場学習論』など、共編著多数。


「残念な」事例から学ぶ話し合いの作法

「話し合い」はトレーニングでき、学び直すことができ、そして、うまくなれると、中原氏は語る。ただ、職場・チームにおける「話し合い」に対して、「特定の人だけがしゃべりがち」「話し合ったというアリバイづくり」など、ネガティブなイメージを持つ人は多い。

「日本の職場に存在する“残念な”話し合いは少なくありません。例えば、『上司が権力を用いて結論に誘導し、自由な意見交換を妨げる』『参加メンバーが人の話を聞かず、自分の言いたいことをどんどんかぶせていく』『一応、ファシリテーター(リーダー)はいるが、話題がグダグダで何も決まらない』『声の大きい人(上司、発言するのが得意な人)の意見だけが、いつも会議室にこだまする』『会議で話し合ったことを誰も実行しない』など。皆さんも、こういった話し合いを経験したことがあるのではないでしょうか」

メンバーが意見を言っているのに最後まで聞かないばかりか、否定的な意見しか言わない人を、中原氏は「とりあえず噛みついちゃう病」と名付けた。相手の意見を受容せず、反論して論破するタイプもいる。

「こういう人が出てきた場合、リーダーや管理職は、他の人の考えを表出させ、一旦は受け止めるように求めるべきです。そのままにしておくと、誰も意見を言えなくなってしまいます」

例えば、話し合いの「グラウンドルール」を設定しておき、違反があったときは、即時に「ちょっと待って」「そういう場ではないから」とフィードバックすれば、状況を改善できるという。

中原氏が次に取り上げたのは、「アンケートフォームで意見吸い上げちゃう病」。話し合ってもメンバーの意見がバラバラになっていて決められないと感じた上司が、安易にWeb上のツールなどを使って意見を吸い上げようとするケースだ。

「リーダーや管理職は、メンバー同士が話し合う時間をきちんと取らなくてはならなりません。アンケートフォームを使って意見を求めても、うまくいかないでしょう。賛同意見が多かったとしても、メンバーの納得感が得られなければ、結局は実行されません。ITツールを使えばごまかせてしまう面もあるのかもしれませんが、それではリーダーが決断から逃げているだけです」

では、なぜこのような“残念な”話し合いがまん延しているのだろうか。原因の一つは、「話し合い」や「ファシリテーション」について、そもそも学んでこなかった人が多いこと。その結果、これまで「残念な話し合い」ばかりを経験し、観察学習する機会がなかったと考えられるという。

このような状況をなくすため、特にリーダーや管理職は、話し合いや話し合いをうまく促進するスキル(ファシリテーション)を学び直す必要がある。

「Iモード」で対話し、「Weモード」の納得感を得る

中原氏は、大学のゼミがスタートするとき、まず話し合いの作法をインストールすることから始めるという。話し合いの定義としているのが、(1)チームのメンバーとまず“対話”をすること、(2)自分たちのやるべきことを“納得感”を持って決めて実践することの二つだ。

「定義づけした話し合いをうまく進めるために、メンバーの相互理解を促して成果を生み出すサポートをするのが、ファシリテーションです。話し合いを促すためのファシリテーター、リーダーの働きかけは非常に大事です。

(1)においては、リーダーから働きかけてメンバーの考えや意見を引き出し、お互いに確認し合います。メンバー一人ひとりに自分の考えや意見を『I think』『I feel』と表出させるのです。

(2)においては、リーダーがメンバーから出てきた考えを論理的に整理して、納得感のするある決断へ導きます。メンバーたちの対話をもとに『We do』を定めるのです。

つまり、まずは『I think』『I feel』といった『Iモード』を引き出し、その上で、『We do』といった『Weモード』に向かって働きかけていくことが、ファシリテーションなのです」

講演写真

では、なぜ最近のビジネスシーンでは「話し合い」が大事になってきているのか。いくつかの理由があると中原氏は言う。

一つ目は、これまでの「勝ちパターン」がもはや通用しないこと。少し前のビジネス界は、みんなが持っている同じものを大量に作れば良かった。「これをやっておけば絶対大丈夫」という勝ちパターン、正解が決まっていたため、話し合う必要がなかったのだ。経営学的には、話し合い(コミュニケーション)はコストになると考えられていた。「つべこべ言わせずに作らせる」ことが、リーダーの役割だった。

「ところが、最近のビジネスは違います。みんなが見たことのないものを提案しなければなりません。勝ちパターンは読みにくく、しかも毎年変わっていく。そうなると、みんなで考えながら提案するものを決めていかなくてはなりません。そのため話し合い(コミュニケーション)はコストではなく、投資と捉えられます。リーダーには、話し合いを促していくスキルが求められます」

二つ目の理由は、多様性。2040年には1100万人の労働力が不足するという予測もある。既に、外国人、育児や介護をする人、中途採用者など、職場には多様な人たちの姿が見られる。多様になるほど外側に向いていく遠心力が働くため、チームをまとめる力、求心力が必要になる。チームレベル、職場レベルでの話し合いは欠かせない。サーベイを行い、その結果をリーダーが職場へフィードバックし、エンゲージメントを高めるように働きかけるのも、その一例と言える。

「ところが、サーベイのデータを取っても、放置されていたり、話し合いをしてもまとまらなかったり、話し合いで発言しない人がいたり、といった問題が散見されます。サーベイを実施しても、チームの中でしっかりと話し合いができていなければ、職場の状態が良くなるわけがありません。やはり、ファシリテーションのスキルをきちんと身につけた人が必要なのです」

三つ目は、「いいからやれ! マネジメント」が通用しない時代であること。ひと昔前のマネジメントでは、上司の言うことが絶対とされていたが、今は違う。職場運営・チーム運営は、リーダーがメンパーとコミュニケーションをとりながら、納得感を引き出して進めなければならない。

「納得感がなければ、エンゲージメントは高まらないし、生産性も上がらないからです。ここでもやはり、話し合いを促すスキルを持ったリーダーは欠かせません」

対話では「自分」を出し「ズレ」を認める

では、リーダーは実際にどのようにして話し合いを促せばいいのだろうか。「話し合いの作法」をインストールすれば学び直すことができるが、中原氏はその一部である対話モードを紹介した。

「まず『そもそも、対話とは何か』というイメージを、共通の認識としてチームレベルでインストールしておきます。先ほどお話ししたように、『We do』といった『Weモード』に入る前の、『I think』『I feel』といった『Iモード』をきちんと引き出すコミュニケーションです。それぞれが出す『I think』『I feel』のズレも確認し合います」

中原氏は、対話モードに重要な四つのポイントをまとめた。

一つ目は、対話には「目的」「テーマ」が必要なこと。リーダーは「なんでもいいから話してください」「意見を自由に言ってください」と言いがちだが、それでは対話は生まれない。何をするにしても、まず目的を把握しておくことが基本だが、それは対話も同じだ。「なぜ、このテーマで対話をするのか。背景・目的は何か」「忙しいのに、なぜ対話をするのか」「なぜ、私たちが対話をしなくてはならないのか」「対話の先に、どんなメリットが考えられるのか」を伝えて、メンバー全員で把握しておくのである。

加えて、質問の出し方にも工夫が必要だ。自分の意見を自由に表明できる質問、答えの主語が“私”になる質問、参加者が過去に経験してきたことを問う質問を投げかけるのがコツである。

「例えば、『今日は集まってくれてありがとう』と労いや感謝の言葉から始め、『業務の進捗報告をする前に、みんなで話し合いたいことがあります。実は先日、職場内のコミュニケーションが不足しているのではないか、ということが話題になりました』と背景を説明します。そして、『さまざまなトラブルや欠品などが生まれている部署もあり、会社全体の信用にも関わります。そこで、うちの職場でもこの問題について話し合いたいと思います。目的は、職場をよりよくするためであって、犯人捜しやあら探しではありません』と意図を伝え、『この3ヵ月間に、職場内に少し気になることやオヤッと思った出来事はありませんか』と、答えの主語が“私”自身の経験になる形にして問いかけるのです」

二つ目は、対話では一方通行にならないように言葉を交わすこと。リーダーにとって、相手の発言をじっと待つのは難しいことかもしれないが、こらえなければ、相手は話すタイミングを逸してしまう。

「メンバーは、リーダーに問いかけられて初めて考え始めるため、沈黙の時間が生じることになります。この時間を待ちきれずに、リーダーが自分の言葉で沈黙を埋めようと話し出してしまうことが多い。

これを防ぐには、メンバーにシンキングタイムを与えると良いでしょう。例えば『考える時間を3分設けます』と伝え、時間を与えておいてから、一人ずつ話してもらうようにする。シンキングタイムが取れない場合や重要な案件の場合は、事前に考えておくようにあらかじめ伝えておきます」

三つ目は、対話に「自分」を持ち寄るようにさせること。

「これは、自分の考えや意見を相手の目の前にポトンと落とすイメージです。『外部のデータによると』『ニュースに出ていた通り』などの言い方をして、自分の意見を隠すのではなく、自分自身がどう思うのかを示してもらうようにします。一人ひとりの意見を引き出し、この段階では相手の意見を一旦受け取ることを心がけます」

四つ目は、お互いのズレを探り合うようにすること。みんなの考えや意見を受け止めて、分かり合えるところを探りながら、お互いのズレを確認していく。

「まずは、ズレを確かめ合うコミュニケーションが大事です。誰かが強く主張した意見をもとに決断したり、二者択一に持ち込んだりしてしまうと、硬直状態に陥ってしまいます。

これを防ぐためには、問いを変えること、視点をシフトさせることが有効です。いろんな意見や価値観をテーブルの上に全て並べて眺めてから、本質観取をする。つまり、共通点を探していくのです」

「原理原則」「ロープレ」「実践」が不可欠

以上の対話モードのポイントを踏まえて、中原氏はファシリテーターの役割を四つにまとめた。

  1. 引き出して確認する。参加メンバーの意見や価値観を引き出すこと。「Aさんの意見は〜ということですね」とリピートする。
  2. 整理する。似た意見、違った意見を並べたりすること。「Aさんの〜はBさんの〜と似ていますね」「Aさんの〜の意見は、Bさんとは〜違いますね」とまとめる。
  3. 共通点を探る、分かれ道を探る。その時点までの要点をまとめ、共通点を探ること。「AさんとBさんの意見は〜。ここまでは一緒です」と分岐点を指摘する。
  4. 決める手伝いをする。メンバーの腹落ち感のある結論をつくり出すこと。

「人は決断を急かされると決められないし、決まったとしても実践しなくなってしまいます。面倒でも対話した方が、気持ちよく働けるはずです。ファシリテーターは、コンフリクトが生じたら、それがどこから生じたのかを探り、何ができるかを考えてください。葛藤は、逆に言うと、やりたいことがそれぞれの人々の中にある証ですから、歓迎すべきです」

実際に「話し合いの作法」を習熟していく際は、まず、Eラーニングや動画、本などから原理原則を学ぶことから始める。良い話し合いのイメージを自分の中に植えつけていくのだ。次にロープレに入るが、ここでは周囲から「このように話しかけた方がもっとよくなる」といったフィードバックをもらう。それを活かして実践に移し、振り返る。つまり、「原理原則」「ロープレ」「実践」が不可欠なのだ。座学だけでは不十分であり、実践して振り返るという実践知が得られなければ、なかなか身に付かない。

「私のゼミでは、ゼミ室にiPadやスマートフォンのカメラを数台、角度を変えて設置してから、チームのファシリテーションを行なっています。映像を見て、『ここではこう働きかけるべきだった』『こんなふうに問い出せばよかった』といった振り返りや、フィードバックをするようにしているのです。この方法によって、話し合いはぐんとよくなります。

客観的に自分を見なければ、コミュニケーションの技術は上達しません。私が一番お勧めするのは、自分がファシリテーションしている様子を動画で撮っておいて、後から振り返ってみること。なるべく早い時期から、こういったトレーニングに取り組んでほしいと思います」

話し合いは学び直しができる。そして、学べば絶対にうまくなると強調して、中原氏は講演を締めくくった。

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