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「えるぼし」・「プラチナえるぼし」認定企業と考える、女性活躍推進の取組み・情報公表のベストプラクティス

  • 高村 静氏(中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール) 准教授)
  • 瀧 礼江氏(株式会社シーボン 取締役 執行役員)
  • 月岡 良一氏(小柳建設株式会社 統括経営管理部総務部 部長)
特別講演 [K-2]2023.12.21 掲載
東京海上ディーアール株式会社講演写真

2022年4月に施行された改正女性活躍推進法は、一般事業主行動計画の策定・届出などの対象を拡大した。さらに、2022年7月から男女の賃金差異の情報公表の義務化もなされた。本講演では、「えるぼし」「プラチナえるぼし」の認定を取得するなど、女性の活躍推進に積極的に取り組む株式会社シーボンの瀧礼江氏、小柳建設株式会社の月岡良一氏が登壇し、それぞれの取組みを紹介。中央大学ビジネススクール准教授の高村静氏のファシリテーションで、座談会形式で女性の活躍推進企業データベースの活用方法など、両社の事例をもとに議論した。

プロフィール
高村 静氏(中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール) 准教授)
高村 静 プロフィール写真

(たかむら しずか)博士(東京大学)。研究分野は人的資源管理、ダイバーシティ・マネジメント、ワーク・ライフ・バランス等。民間企業勤務、内閣府 男女共同参画分析官、独立行政法人経済産業研究所フェロー、経済社会総合研究所客員研究員、成城大学特別任用教授等を経て、2019年より現職。著書・共著書多数。


瀧 礼江氏(株式会社シーボン 取締役 執行役員)
瀧 礼江 プロフィール写真

(たき あやえ)大学卒業後、金融、IT 企業を経て、2014 年にシーボンに入社。入社以来、人事業務に従事し、人事制度及び評価制度の構築、女性活躍推進施策を推進。その後、マネージャー、人事部長、執行役員を経て、2021 年に取締役に就任。管理本部責任者として、組織の活性化、やりがいのある職場づくりを担う。


月岡 良一氏(小柳建設株式会社 統括経営管理部総務部 部長)
月岡 良一 プロフィール写真

(つきおか りょういち)大学卒業後、システム開発会社に入社し大手医薬品メーカーのシステム開発に従事。2011 年に小柳建設株式会社に入社し社内 SE を担当。その後社長室、人事部を経験し 2020年より現職。


本講演の協賛企業である東京海上ディーアールは、東京海上グループの一員として、企業を取り巻くさまざまなリスクを全方位的視点で把握し、実践的で効果の高いソリューションを提供している。

従業員の「働きがい」と「働きやすさ」を両立し、成長実感の向上、職場環境の整備、心身の健康増進、ワーク・ライフ・バランスなどを実現する「ウェルビーイング経営」と、経営戦略の遂行にとって基盤となる「人的資本経営」を支援。本講演のテーマである「女性活躍推進」においては、厚生労働省から「女性の活躍推進及び両立支援に関する総合的情報提供事業」を受託してサポートしている。

女性活躍への取組みは、本気で取組むことで、人手不足の解消や職場環境の整備、労働生産性向上、健康経営などの課題に取り組む契機にもなる。なにより、女性が働きやすい職場づくりは、結果的にすべての人が働きやすい職場づくりにつながるだろう。

企業の成長を後押しする「女性の活躍推進企業データベース」

講演の冒頭では、厚生労働省雇用環境・均等局雇用機会均等課課長補佐の加藤氏より、「女性活躍推進法『男女の賃金の差異』の情報公表について」説明があった。2022年7月から301名以上の企業には男女の賃金差異の情報公表が義務化された。義務化されたのは数値の公表だが、加えて男女の賃金の差異が発生している要因や今後の女性活躍に向けた取組みについて公表することが企業の女性の活躍推進の本気度を示すものであり、要因分析などを公表することが重要となると説明した。公表にあたっては厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」の利用を推奨している。

ファシリテーターを務める高村氏は、女性活躍と情報公表には密接な関係があると語った。特に継続的な情報開示のプラットフォームである「女性の活躍推進企業データベース」を継続的に活用することは、企業自身の成長につながる面もあるという。一つは、企業の自発的な取組みや努力の水準を公表し、外部・内部から評価を受け、選ばれるようになることで、企業の取組みのモチベーションを高めることが可能になる点があげられる。重要な外部者として、将来の採用候補者に加えて近年は投資家の目線も重要になっている。

そしてもう一点、そもそも「女性の活躍推進企業データベース」への開示にあたり、データの把握が必要になるが、それによって自社の課題や原因を明らかにし、自らの成長のために必要だと思う目標を設定することができるようになる。それぞれの企業が、自社にふさわしい取組みを進めることが可能な仕組みだと説明した。

一人ひとりがライフステージに合わせ、いきいきと働ける職場を目指して

次に、株式会社シーボンの瀧氏がプレゼンを行った。シーボンは、東京都港区に本社を置く社員約740人(2023年3月31日時点)の化粧品メーカー。

化粧品の研究開発者、フェイシャリスト(サロンスタッフ)、バックオフィスで支えるスタッフに至るまで、女性社員の比率は約90%で、女性管理職比率は約85%となっている(2023年3月31日時点)。知識や技術を持った女性社員に長く活躍してもらうことは、ひいては会社の成長につながると考え、早くより女性活躍に取り組んできた。2008年のマタニティ制服の導入を皮切りに、制度の充実をはじめ、社内の意識改革を図るなかで、「くるみん」や「プラチナえるぼし」、各種表彰の受賞など、女性活躍推進企業としての認知を高めている。

シーボンが考える女性活躍とは、出産・育児はもちろん、介護や役職定年、定年と、さまざまなライフステージの変化においても、女性が長く働き続けられる職場の実現である。女性活躍を推進するのは、女性が働きやすい職場の実現は、全ての社員が働きやすく活躍できる環境の実現につながると考えているからである。

講演写真

瀧氏は、異なるライフステージで活躍する、同社の3名の女性の実例をあげて、具体的に説明した。まず育児と仕事の両立事例として、入社5年目に店長となった勤続16年目の女性社員の例を挙げた。2020年11月から2022年3月までの産休・育休を経て、一般スタッフとして職場に復帰し、現在は管理職として大型店を任されているという。

「当社は、できる人材、チャレンジした人材には、年齢や在籍年数を問わず、機会を与える風土があります。彼女自身の頑張りと周りの協力で、店舗運営においても非常にプラスに働いています」

続いて二人目の事例として、介護と仕事を両立している勤続15年目のスタッフの例を紹介した。もともとフルタイムでチーフや店長などを担っていたが、2022年10月より介護のため、正社員でありながら短時間勤務が可能な「ショートタイム正社員」を選択している。

「当社は柔軟に職種変更ができる制度が整っています。仕事に軸足を置ける時期は思いきり働くことができ、家庭と両立を図らなければならない時期は、役職を降りたり職種を変更したりできます」

最後に三人目の事例として、定年後の嘱託社員の例を紹介。シーボンの定年は65歳だが、本人の希望を聞き、この方の場合は嘱託社員として正社員と変わらぬ労働条件で就業しているという。定年後は本人の希望により、他に「パート社員」や「ショートタイム正社員」を選択することもできる。

「女性活躍推進とともに、育児時短社員が多くなり、夕方から夜にかけての人員不足が課題となっています。定年後の嘱託社員は、その部分をカバーしてくれる非常に大切な存在です。ちなみに、当社では最高齢で現在74歳の美容スタッフが活躍しています」

55歳以上の社員を対象としたセカンドキャリア研修は、若い世代への関わり方や、会社からの期待を伝え、必要な人材として長く働いてもらうことを目的としている。

「女性活躍というフレーズがなくなった社会が、真に女性活躍を実現できている社会なのではないでしょうか。女性活躍を目指す本当のゴールは、特定の世代の女性にフォーカスを当てることではありません。男女関係なく、一人ひとりがその時々のライフステージにおいて、いきいきと活躍できる職場であることが大事だと考えています」

「担い手不足の解消」「3Kの払拭」「新3Kへのビジョン」から「女性活躍」へ

次に、小柳建設株式会社の月岡氏がプレゼンを行った。小柳建設は、新潟県三条市に本社を置く、社員数約230人(2023年10月1日時点)の総合建設会社。土木・建築工事の請負や河川や湖沼の土砂を取り除く工事、Holostruction事業(建設DX技術の開発)などを手がけている。女性社員率は16.2%、女性管理職比率は16.7%(2023年6月1日時点)。社員の働き方改革を進め、生産性の向上に注力している。

建設業では、「熟練技術者の高齢化」や「若手技術者の減少」といった業界独自の課題を抱えており、DXの推進による日常業務の効率化や女性を含めた多様な人材が活躍できる職場環境の整備を図ることが不可欠だと考えている。

これらの課題解決のために掲げているビジョンがある。いわゆる3 K(きつい、きたない、きけん)イメージの払拭と、新3K(給料、休日、希望)の実現である。月岡氏は、「新3Kの実現により、建設業を憧れの業種にしていきたい。より魅力あふれる産業として認知されることで、経営理念の実現にもつながる」と説明した。

2023年9月、小柳建設は、新潟県内の建設産業では初めて、新潟県内の全産業で見ても2例目となる「プラチナえるぼし」に認定されたが、もともと女性活躍推進を目的とした取組みではなかったという。結果として、女性社員率・女性管理職率の向上につながったが、それぞれ取組みの根本には「担い手不足の解消」「3Kの払拭」「新3Kへのビジョン」がある。

講演写真

「担い手不足の解消を目的とした取組みとして、『衛生パトロール』があります。女性社員の目線で現場を確認し、気になる点を指摘してもらうものです。取組みの結果、現場勤務の男性では気づかなかった危険な場所や、整理整頓がされてない箇所の発見などにつながり、社内環境が改善されました」

「衛生パトロール」を経験することは、女性社員が直接建設現場を見ることにつながった。また、改善されていく職場を見て、「これであれば私たちも現場で働いてみたい」と事務職から現場代理人にキャリアチェンジする女性が現れるという成果もあった。

性別に関係なく能力を発揮する職場環境整備の一環として、生理について全社員に教育する「生理研修」も実施している。男性社員が多くを占める建設現場において、女性社員が活躍するためには欠かせないテーマだと考え、リーダー社員から一般社員へと教育の機会を広げている。受講者からは「これまでの自分自身の考え方を見直すことにつながった」「お互いの配慮が大切だとわかった」という声が寄せられているという。

「性別に関係なく働きやすい職場を実現することを目指した結果、女性活躍につながったと考えています。それが全社員の意識変革や生産性の向上につながり、数字の上でも我々のビジョンである『3Kの払拭』『新3Kの実現』に近づいているという手応えを感じています」

長期的な視点で情報開示をしながら取組みを進めていく

ここからは三人によるディスカッションが行われた。

高村:小柳建設さんでは、さまざまなツールを使って情報の発信をされていますね。

月岡:「3Kの払拭」「新3Kの実現」は、当社だけでは取り組めない大きな課題だと考えています。そのため、このビジョンを多くの方に知っていただくことが大切です。「女性の活躍推進企業データベース」でコーポレートメッセージを出しているほか、さまざまな媒体を通じて、ステークホルダーにメッセージを伝えています。

高村:ガラス張りの外観である、本社「加茂オフィス」もその一環ですか。

月岡:そうですね。我々の働く姿を「見える化」した一つの形だと思っています。

瀧:外部へのメッセージでいえば、当社ではホームページや女性の活躍推進企業データベースでの発信・公表のほか、各社から送られてくる調査票に積極的に回答しています。また、ビジネスレポートなどを通じて、女性活躍推進への取組みをしっかりと伝えるようにしています。

高村:シーボンさんは上場企業として、情報開示を高く意識されていると感じています。

講演写真

瀧:サステナビリティ情報の開示も有価証券報告書内で行っています。サステナビリティと女性活躍の数字の関連性は、一時点だけでは見えないものです。女性活躍は結果が見えるまでに時間がかかります。そのため経年で見ていただけるとよいのではないかと感じています。

高村:長期的な傾向、つまり努力の方向性を見てほしいということでしょうか。

瀧:そうですね。例えば女性管理職比率を上げるためには、まず社内の女性社員の比率を増やすなど多面的な取組みが大事です。本当に時間がかかることだと考えています。

高村:二社とも、自社に合ったやり方で時間をかけて取り組まれています。その成果として、女性活躍推進企業としての認定があったということですね。情報開示のメリットはどんなところにありましたか。

瀧:シーボンでは、女性が活躍することが企業の成長に直結しています。女性活躍推進は長年にわたって取り組んでおり、現在は社員にも浸透しています。社員に「当社の誇れるところは」というアンケートをとると、「女性活躍」という言葉が多く挙がるようになりました。これは組織として、大きなメリットだと思います。

組織外のメリットは採用です。学生に「そういう企業で働いてみたい」と思ってもらえることは、大きなメリットだと思っています。ほかには、見える化することで課題が浮き彫りになり、そこに対する施策が打てるという点もメリットと言えます。

高村:データにすると理解が深まるということでね。

月岡:見える化は重要だと考えています。何となく働きやすい、何となく女性が活躍しているということではなく、数値を出すことで会社の現時点をしっかりと把握できるところが情報開示のメリットではないでしょうか。目標に対して何合目まで来ているのかがわかることで、課題が明確になると考えています。

高村:内部からも外部からも承認を得るために、情報をデータとして開示していくことが重要だということですね。女性活躍が数値として見えてくるまでには時間がかかります。それでも、さまざまなデータやツールを使って、社内外に発信し、現在地を明らかにしながら取組みを進めていくことが重要です。本日はありがとうございました。

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