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障害者雇用の最注目テーマ
「ニューロダイバーシティ」推進による人材活躍、企業貢献事例解説

  • 大濱 徹氏(パーソルダイバース株式会社 雇用開発部 兼 Neuro Diversity事業部 ゼネラルマネジャー)
特別講演 [T-6]2023.12.21 掲載
パーソルダイバース株式会社講演写真

脳や神経の違いを多様性と捉えて互いを尊重し合い、活かす「ニューロダイバーシティ」は、国内外で注目を集めるテーマだ。欧米でもIT企業をなどでさまざまな事例が出始め、企業における障害者雇用や人材戦略にもつながると積極的に取り入れる企業が増えている。パーソルダイバース株式会社の大濱 徹氏が、ニューロダイバーシティについて説明するとともに、企業事例として日揮パラレルテクノロジーズ 代表取締役社長である成川 潤氏が登壇し、解説した。

プロフィール
大濱 徹氏(パーソルダイバース株式会社 雇用開発部 兼 Neuro Diversity事業部 ゼネラルマネジャー)
大濱 徹 プロフィール写真

(おおはま あきら)パーソルキャリアへ入社後、障害者の人材紹介サービス「dodaチャレンジ」に参画。2013年より、同サービスの責任者。多くの組織の採用支援と雇用アドバイザリー業務に従事。現在は、パーソルグループで障害者雇用支援事業を展開する、パーソルダイバースの事業開発に従事。


多様性を尊重し合い、社会に活かすニューロダイバーシティ

パーソルダイバースは「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンに掲げるパーソルグループで、障害の種別にかかわらず能力を発揮できる機会や新たな雇用モデルの創出を目指す、パーソルグループの特例子会社だ。「障害者雇用を成功させる。そして、その先へ。」をミッションとし、パーソルグループ内のさまざまな業務を受託するグループ障害者雇用事業のほか、全国各地の地域障害者の雇用創出にも力を入れている。

また、それらで得た雇用ノウハウを基に、障害者雇用に取り組む企業や就業を目指す障害者への支援事業を展開している。ニューロダイバーシティに関しては、先端IT領域特化型就労移行支援事業所「Neuro Dive」を通じて、特性を強みとして活躍する支援を行っている。Neuro Diveでは質の高い講座と現役データサイエンティストによる直接指導によって、AIや機械学習・データサイエンス・RPAなどの専門スキルを学び、就労へと導く。

まず大濱氏は、「ニューロダイバーシティの本質とは何か?」「障害者雇用“人材の戦力化”とは何か?」「“本業に資する”とはどういうことか?」の3点を頭の片隅に置いて今回の講演を聞いてもらいたいとしたうえで、話を進めた。

「ニューロダイバーシティとは、Neuro(脳・神経)とDiversity(多様性)という二つの言葉が組み合わさってできた造語です。脳や神経、それに由来する個人レベルでのさまざまな特性の違いを多様性と捉えて相互に尊重し、それらの違いを社会の中で生かしていこうという考え方です」

ニューロダイバーシティは90年代、アメリカにおける自閉症の特性を持つ人たちのコミュニティの中から生まれた言葉だ。例えば性や宗教、価値観、民族などにもさまざまな多様性がある。それらと同じように、脳機能に由来する自閉症も尊重されるべき多様性の一つという考えだ。出発点は自閉症だが、そもそも脳の特性は100人いれば100通りあるといわれる。そのため、概念としては全ての人を指す言葉として育まれていった。

「ニューロダイバーシティが求められている背景には、障害者雇用領域におけるさまざまな変化、産業就労人口減少などがあります。また、ニューロダイバーシティを推進するメリットとして、テクノロジー分野に強い人材の確保、採用人材のバリエーション増加など、事例がいくつか出始めている状況です」

IT関連課題の解決に注力する、日揮パラレルテクノロジーズ

続いて、日揮パラレルテクノロジーズの成川 潤氏が登壇した。日揮パラレルテクノロジーズは、2021年1月に設立した日揮グループの特例子会社だ。従業員数は29名、そのうち27名が精神発達障害を抱えている。

「弊社は、スキルはあるものの業務経験がない、精神発達障害ゆえに企業から採用を敬遠され、働きたいのに働くことができていない、というITエンジニアに対して門戸を開き、優秀な人材を集めています。日揮グループ内のAI・機械学習、Webアプリケーション開発、業務効率化といったIT関連課題の解決を担っています」

仕事を安定的に作り出している理由は、大きく二つある。一つは、日揮グループ内において、重要だが緊急ではない仕事だけを請け負う専門部隊であることをブランディングしていることだ。企業内には無数にある、そういった仕事を請け負うと言えば、多くの仕事が集まるのだ。もう一つは、発注費用を各社の人事部門が負担する形にして、発注部門はゼロ負担にしていることだ。

講演写真

「こうしたことを実現するために、会社ができる支援の一つとして制度があります。これまでダイバーシティ推進と言えば、例えば育児介護者への手当てのように『休みたいけど収入が減るから休めない』という負を解消するための制度ばかり作られていたのではないでしょうか。
それよりも『こうしたら働ける』という希望に柔軟に応えていく制度があれば、多様性のある組織がどんどん生まれてくるのではないかと思います」
そこでまずやるべきは、時間と場所の制約を外すことだという。同社ではフルフレックス制度を導入。それにより、日本全国の制約を抱えている優秀な人材の採用が可能になる。
「もう一つはソフト面、特に人間関係です。弊社ではチーム単位ではなく、一人で一つのプロジェクトを担当する体制にしています。人間関係が固定化されたとき、それが原因となって、いろいろな悪影響が出てくることがあるからです。そのため、そもそも人間関係は業務で作らない、作らなくて良い、というコンセプトにしています。また業務を一人できちんと回せるように、報連相の仕組みをルール化しています」

最後に、ダイバーシティについてこう締めくくった。
「家族や性的指向、性自認性的特徴、障害の有無などは成果に全く関係のないことだと思っています。それらの影響で優遇に差が出る制度や仕組みを徹底的になくした結果、生まれるチーム・会社の状態が、ダイバーシティなのではないでしょうか。」

今までにない形で障害者雇用を変える

続いて、成川氏と大濱氏によるディスカッションが行われた。

大濱:作られてきた雇用モデルパターンは非常に理にかなっていると思います。これは最初に描かれていたものでしょうか、それとも、試行錯誤しながら作られたものだったのでしょうか。

成川:最初はコンセプトだけでした。具体的にどんなことをやっていくのかは、やってみないとわからない。丁寧に、柔軟に変えていかなければなりませんでした。


大濱:一歩踏み込んで取り組んでいくうえで、反対の声や課題などはありましたか。

成川:弊社の設立時やその後も、周りから反対は一切ありませんでした。障害者雇用をポジティブに変えていきたい、今までにない形を作りたい、という考えが良いことだと判断されたのではないでしょうか。
ただし、課題はたくさんあります。一番苦労していることは、一人ひとりに合った仕事をいかに作ってあげられるか。何度も試行錯誤を繰り返しながら、その人にベストマッチの仕事を作れるように、リソースを割いています。


大濱:成川さんも元は人事担当者だったので、企業活動においてどのように社員に活躍してもらうのかが普遍的なテーマや課題だったのではないでしょうか。


成川:そうですね。これだけ人材の流動化が激しい社会において、自社に所属してもらえる意義をいかに打ち出せるかが、人材獲得競争の肝になってくると思います。その一つとして、「あなたに成果をきちんと出させます」と約束できるかどうかは非常に重要なポイントではないかと思います。

大濱:講演の冒頭で、「ニューロダイバーシティの本質とは何か?」「障害者雇用“人材の戦力化”とは何か?」「“本業に資する”とはどういうことか?」という三つの論点を紹介しましたが、成川さんは、どのようにお考えでしょうか。


成川:「障害者でもできる仕事」という探し方ではなく、「だれでもいいからここを手伝ってほしいと誰もが思っている仕事」にフォーカスし、解決する手段として障害者雇用を活用すれば、おのずと戦力になり、本業に資する障害者雇用が実現できるのではないでしょうか。
大前提なのは、ニューロダイバーシティがあるということ。発達障害者だけではなく、みんなダイバーシティを持って生まれています。「あなたに合わせて成果を最大化させる」という姿勢が大事だと思います。


大濱:本日は参考になる事例をお話しいただき、ありがとうございました。

参加者に聞く、自社の課題と解決のための取り組み

講演の最後には、参加者の方からも、自社の取り組みや課題などをご紹介いただいた。
Neuro Diveから人材を採用しているという企業からは以下のような声が聞かれた。

「これからはIT人材の採用に注力していこうと考えているのですが、発達障害のある方の集中力の高さは、IT領域の仕事において長所になると感じ、採用しています。実際、採用した人材は戦力として活躍しています。今後の課題は、受け入れ先の部署を拡大していくこと。人材育成やマネジメントが難しいという部署もあるので、障害者雇用への理解を促進しつつ、将来はどの部署にも必ず一人、障害者の方がいる状況を作っていきたいですね」

障害者人材の戦力化については、以下のような声もあった。

「障害のある人材が活躍するためには、定着するまでの期間が大事です。分からないことや不安なことなどを質問できる環境を作ること、できることを増やしていき、着実に業務量を増やしていくサイクルをいかに作り上げることが重要ではないでしょうか。

大濱:貴重なご意見をいただき、感謝申し上げます。本講演でのお話が皆さまのお役にたち、より良い障害者雇用を実現することを祈っています。本日はありがとうございました。

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